発酵と腐敗
先日、ある方から発酵と腐敗は何が原因で分かれるのか、というご質問がありました。
発酵と腐敗、どちらも微生物の働きによるものですが、どこが違うでしょうか。
人間の都合だもの…
微生物は「発酵させよう」とか「腐敗させよう」とか目的をもって働くわけではありません。微生物はそれぞれの個性と環境に応じ、種の保存という合理性のなかで生命活動をしている。それが人間にとって好ましいものであれば「発酵した!」と喜ばれ、風味が悪くなったり、毒性を持ったりすると「腐った」「腐敗した」と嫌われます。
発酵なのか、腐敗なのかは人間の都合に過ぎません。自然の営みの中から人間にとって好ましいものを利用してきたのが発酵ということになります。
環境を整える
特別に管理した状態でなければ、私たちは生活空間で日常的にたくさんの微生物と接していますが、その環境によって増殖しやすい微生物の種類はある程度決まってきます。ですから食品の特性に合わせて保存方法などが定められていて、なるべく腐敗を引き起こす菌が増えないような環境を保つわけですね。
有用微生物にしても気候の異なる、例えば北海道と九州や沖縄では伝統的な発酵食品には違った個性が見られますし、広くみると、世界各地に気候風土に根ざした発酵文化があります。日本の味噌、醤油、酒など麹菌を中心にしたもの、韓国のキムチ、ヨーロッパのチーズやワイン等々、様々。
これらの発酵文化はオールドバイオと呼ばれる技術(テクノロジー)。今、一般にバイオテクノロジーというとニューバイオ、すなわち遺伝子組み換え技術を利活用するものを指すことが多い。ニューバイオテクノロジーなくして現在の医療や化学工業は成立しませんが、オールドバイオも食文化を支える大切な技術だと思います。ちなみにスターターも使わない自然発酵の酵素の製造技術をワイルドバイオと呼んでいます(僕が勝手に…笑)
腐敗は害悪か…?
さて、人間にとっての好ましさで発酵と腐敗を分けているのですが、では腐敗を引き起こす菌は撲滅した方が良いのかというとそうとも言えません。
確かに腐敗したものを食べるとお腹を壊したり、増えた菌の種類によっては命を落とすことさえもあり得ます。この点では害として認識しておくべき。
しかし、もう少し大きな視点で考えると腐敗も私たち人間にとっても害悪どころか、ないと困る微生物の働きだということがいえると思います。
地球上のあらゆる物質は様々に形を変えながら循環し続けていますが、有機物を構成する物質の循環は有機物を分解する微生物の働き無くしては成立しません。腐敗を引き起こす菌が撲滅されるとその循環が途切れてしまい、もしそんなことになると地球上はゴミだらけになってしまうでしょう。
私たちはこれからも発酵の力をどんどん活用していくことになると思います。一方で、美しい地球の姿を保つためには腐敗菌も含めた様々な微生物の働きが関わっていることも忘れないようにしたいものですし、いつか、今まで腐敗とされていた現象から有用な働きが見いだされるかも知れません。
この記事の投稿者
福士宗光
父から継いだ酵素製造と、自身はヨガ素人ながらヨガスクール運営を行っているケルプ研究所2代目経営者。
健康は食生活や適宜の運動を通じて自分自身で築き上げるもの。酵素とヨガでお手伝いすることが使命と考えています。