酵素の誤解を解く その3|酵素栄養学の誤謬

 

 健康, 酵素

酵素の誤解を解くシリーズ。
これまで、「その1:生体内酵素と食品酵素 」では、飲料の酵素は生化学でいう酵素とは別のものだということ、「その2:なぜ「酵素」と呼ばれる? 」では飲料の酵素がなぜ酵素と呼ばれるようになったか、の歴史を概観しました。

その3では、誤解の要因の一つとなった(と僕は考えている)酵素栄養学について。このことについてはこのブログでも何度か書いていますが、あらためて。

実践は良いことなのだが…

「酵素栄養学」はエドワード・ハウエルという人が1946年に提唱し、1985年に一般向けの書物となり、日本でも1999年に『キラー・フード:あなたの寿命は「酵素」で決まる』というタイトルで翻訳出版されました。

体内の酵素の元となるものとして限りのある「潜在酵素」という概念を導入し、生の食べ物や発酵食品に含まれる酵素を「食物酵素」として取り入れることで「潜在酵素」の消費を抑える。酵素が底をつくと寿命も尽きるという考え方です。

「酵素の誤解を解く その1」を読んでいただいた方は、すでにお気づきのことと思いますが、生体内酵素と食品酵素が混同されています。

この本のある意味で罪深いところは、酵素栄養学の理論に基づいて提案される具体的な食習慣は、続けていると良い状態になるだろうなぁということ。
酵素栄養学で(酵素が豊富なので)摂った方が良いとされる生野菜や発酵食品を食べること、(生きた酵素が含まれていないので)食べない方が良いという種々の食品を食べないことを続けるのは、概ね結果として健康に良い影響を与えるはず。日本でも酵素栄養療法を掲げるドクターがいらっしゃって、実際に臨床的に成果が出ているという。

つまり、実践する内容が正しいので、その前提とされている理論も(科学的には説明が破綻しているように思えるが)一見、正しいように見えてしまっているということなのです。

酵素の説明の難しさゆえ、飛びついてしまったか‥

酵素飲料には長い歴史があり、体感商品としてリピーターも多かった。玉石混交の業界の中で、古くからのメーカーは真面目に製造している、いわば良い商品なのです。ただ、作るのに手数と時間がかかることと、原料の種類が多く作用機序が明確ではないために説明が難しいことがあって、長らく新規参入はありませんでした。

そこへ酵素栄養学という考え方が、一般向けの書物として、アメリカの栄養学の教科書としても使われているという触れ込みで出版された。業界の一部の人たちが飛びついてしまったということかと思います。マーケットは一気に広がってブームといえる状況になった。

結果がよければ(=飲んだ人が健康であれば)理屈はどうでもよいじゃないか、という人もいますが、折角良いものであっても、正しくない説明をしてしまうと商品や業界の信用も損なってしまいます。
実際に、分子生物学の常識からみれば酵素栄養学は非科学的と一蹴されています。酵素が良いものであることについて僕の自信は揺らいでいませんが、酵素栄養学に基づく説明が間違っていることは昔から言い続けてきたつもりなので、業界を正せなかったことは悔しい気持ちです。

健康は不易なもの。食品酵素の良さを信じて製品を永くお客様に提供し続けようと思えば、永いスパンで信用も築かなくてはならない。
当たり前のことなのですが、仮にお客様が何か説明を望んだとしても推測を事実かのように伝えてはいけない。分かっていないところは分かっていないとお伝えすべきです。

関連記事:酵素栄養学では語れない
    :生酵素のお話

 この記事の投稿者

福士宗光

父から継いだ酵素製造と、自身はヨガ素人ながらヨガスクール運営を行っているケルプ研究所2代目経営者。

健康は食生活や適宜の運動を通じて自分自身で築き上げるもの。酵素とヨガでお手伝いすることが使命と考えています。

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