知の背景によって受け取るものは変わる|インド哲学の講義で感じたこと
毎週土曜日はヨガスクールのインストラクター養成コースのカリキュラム。アーサナ(ポーズ)だけでなく、運動生理学や解剖学、そして当スクールの健康の考え方など、インストラクターとして必要なことを学んでいきます。
科目の1つにインド哲学があります。
ヨガの歴史、なぜヨガをするのか、そんな根源的なことを学びます。
ヨガライフスクールは、いわば街のヨガスクールではあるのですが、ヨガである理由はしっかり持っておきたいと考えています。
昨日は『ヨーガの樹』(B.K.S.アイアンガー著、サンガ出版)を読み解きながら、アイアンガー師が説く八支ヨーガについて学びました。
※B.K.S.アイアンガー(1918-2014)はインド人。アイアンガーヨガの創始者で、現在、広く行われているヨガのすべてはアイアンガー師の影響を受けているとされる現代ヨガの巨星。
ヨガレッスンの中で使われるプロップスと呼ばれる補助器具もすべて彼が考案したもの。
※『ヨーガの樹』は、ヨーガを行う上で大切なことを樹木の部位になぞらえながら語る師の初期の講演をまとめたもの。世界中で翻訳されていますが、日本語版はなかった。実は10年前から私も関わって翻訳・出版にこぎつけたものです(詳しくは、また別の機会に)。
※八支ヨーガは、ヨガの八支則とも言われ、ヨガが目指すもの、その段階を示したものです。内容については追々ご紹介していこうと思います(ご興味のある方は『ヨーガの樹』を読んでみるのも良いかも知れません)。
『ヨーガの樹』の難しさは人によって違う
『ヨーガの樹』は、ヨガのアーサナ(ポーズ)についても触れていますが、どちらかというと哲学的なことだったり、ヨガとは何かというような内容。言葉は平易ですが、じゃ実際どういうこと?と考えだすとかなり難解です。
インド哲学の講師をお願いしている石飛道子先生にとっても「難しい」という。一方、翻訳をされた吉田つとむ先生は、平易な内容だとおっしゃっていました。
石飛道子先生は、元々は 仏教が専門で、上座仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老をして「日本の仏教学者で仏教を一番理解しているのは石飛先生だ」と言わしめた方(石飛先生は専門は大乗仏教の方のようですが・・)。
先生は仏教に軸を置きながら、インド哲学を幅広く歩き回り、その中で自己実現をされている、僕からみると稀有の存在です。思想を深く掘り下げながら、とらわれず、ある瞬間には自由に思索の幅を広げ、ある時はその中で遊び、ある時は深く思考の泉に浸る。
ヨーガについて私たちの関わりの中で、徐々に興味を持ってくださり、その理解が仏教への理解を補強するような、そんなこともあったのかと想像しています。
背景にある知
『ヨーガの樹』は、アイアンガー師が語ったことを、側近の方が遺し、それを吉田つとむ先生が翻訳した。
吉田先生は、現在、私たちのヨガスクールのインストラクターが教えていただいている先生ですが、アイアンガー師が世界的存在となる頃に師の通訳となり、何年間か、一緒にヨーガの練習を共にした稀有の日本人です。
ヨガは、本来、実践者が受け取ったものを次の人に伝えていくもの。翻訳者としてこれ以上の適任者はいない。
『ヨーガの樹』日本語版の出版にあたり、訳者である吉田先生は、自身が受け取ったアイアンガー師の思い、師がまとった空気感を含めて率直に伝えることに専念なさいました。
一方、石飛先生はヨガの実践者ではありません。そしてアイアンガー師と会ったこともない。学者として客観的にB.K.S.アイアンガーの哲学を捉えようとする。
昨日の講義はアイアンガー師の哲学の背景を探った興味深いお話でした。
石飛先生は『ヨーガの樹』の中にインド哲学者からみると不可解な論理を感じていたそうです。その内、幅広いインド哲学の文献の中に類似の言葉あることが頭に浮かんだ。そこを足掛かりにアイアンガー哲学の背景を読み取ることを行っていたというのです。
その結果、哲学の体系からみると一見辻褄が合わないような、しかしそれはアイアンガー師の出自や実践の中で様々な思想が織り込まれた、ある種の到達点を見出した。そこまで辿り着くとアイアンガー師の幅広い知識や経験、そして考えていることが分かってくるように思えてきたというのです。
石飛先生は、そんなお話を、楽しそうに、僕たち街のヨガスクールの講義でしてくださったのです。
仏教の言葉を借りれは、すべてのことは因果で語ることが出来る訳です。
人生の豊かさも種々重なり合う様々な因果の中で築かれる。一つひとつ知識は知っているだけだけど、それが知恵に昇華する時、豊かさが生まれるのでしょうね。
石飛先生の深い思索の講義から、僕自身の言葉で語れるものは浅薄で申し訳ない気もしながら、これも僕の知の背景のままなので仕方ありません。
この記事の投稿者
福士宗光
父から継いだ酵素製造と、自身はヨガ素人ながらヨガスクール運営を行っているケルプ研究所2代目経営者。
健康は食生活や適宜の運動を通じて自分自身で築き上げるもの。酵素とヨガでお手伝いすることが使命と考えています。